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VJのギャラは誰が決めるのか、値付けと価値の伝え方から考える

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少し前、X上で「VJのギャラはパフォーマンス時間に対して安すぎるのではないか」という議論が盛り上がっていました。DJは一枠を担当するのに対して、VJは複数の枠を通しで担当したり、ワンマンでイベント全体を背負ったりすることも珍しくありません。それなのにギャラはDJと同じか、むしろ少ないのではないか、という声です。現場を知っている身として、その気持ちはよく分かります。

また、DJやVJは趣味の延長線上で活動している方も多く、しかも「形のないサービス」なので、どう値付けすればいいのか分からない、という話もよく耳にします。

とはいえ、自分はそもそも、公の場でお金の話をすることには否定的です。お客さんからすれば、出演者のギャラが高いか安いかは、音楽を楽しむうえで余計なノイズでしかないからです。

ただ、値付けに悩む声も多く見かけるので、今回は自分なりの考えを書いてみます。

この記事について

本題に入る前に、いくつかお断りしておきます。以下は、一人のVJとしての個人的な考えです。

  • 特定のイベントや主催者について、ギャラが高い・安いといった話をするつもりはありません。
  • ギャラの事情は、VJの経験や活動の仕方、案件の内容によって大きく変わります。この記事は特定の金額の是非を論じるものではなく、資本主義における一般的なルールに沿って、VJとしてどうキャリアを築いていくかについての話です。
  • 未払いや一方的な条件変更など、契約上の不当な扱いまで受け入れるべきだという話ではありません。
  • ギャラの交渉や相談は、本来パブリックな場ではなく、発注者との間で個別に行うのが筋です。

それでは、前置きを踏まえたうえで本題に入っていきましょう。

VJの価値は市場が決める

自分の考えは至極シンプルです。

VJの価値は市場が決める。

VJが「私のVJの価値は一晩◯◯万円です」といくら公言しても、市場がその価値を認めなければ、誰もその金額では発注しません。価値は自己申告で決まるものではなく、発注者との間で決まるものです。

たとえば、スーパーでリンゴが1個300円で売られていたとします。それを高いと見るか安いと見るかは、買う側の消費者が判断することです。売れ残れば値段は下がり、相場に合ったところで売れていきます。逆に、人気のリンゴや名前の知られたブランドリンゴなら、高い値段でも買ってもらえるでしょう。資本主義とは、そういうものです。

VJもまったく同じです。提示した出演料を高いと見るか安いと見るかは、発注するオーガナイザーが判断します。その金額で依頼が来なくなれば、今の自分の市場評価より高いというサイン。逆に、断らなければならないほど声がかかるなら、金額を上げても依頼は続くでしょう。また、有名アーティストの演出を手がけた実績があれば、それも付加価値になります。VJにとっての実績は、ブランドリンゴの「ブランド」のようなものです。

金額の決め方:コストは下限、市場評価は上限

実際の現場では、発注者から「このぐらいの金額でお願いできますか」と提示が来ることもあれば、「出演料はおいくらですか」と聞かれることもあります。前者で提示額が少なければ「この金額ではいかがでしょうか」と返しますし、多すぎると感じたら「それは頂きすぎなので、この金額で大丈夫ですよ」と返すこともあります。

こちらから提示するときに基準にしているのは、「VJの活動を持続させるために必要な金額」です。VJの活動には、目に見えにくいコストが確実にかかっています。

  • PCやコントローラーなど機材の購入費(その償却費用)
  • Adobeをはじめとしたソフトウェアのサブスクリプション費用
  • 素材制作や準備にかかる時間
  • 現場までの移動・搬入出の手間

冒頭の「複数枠を担当するのに安い」という問題も、まずはここで向き合うべき話です。「何時から何時まで、何組分を担当するので、この金額です」と、拘束時間や枠数を根拠とともに提示すれば、発注者も判断しやすくなります。ただし、見合うと判断するかどうかは、あくまで発注者次第です。

コストのうち機材費は、一晩で回収しようとすると高すぎますし、無視すれば赤字になります。PCのような機材は、買った時点ではB/S(貸借対照表)上の資産で、その価値を何年かかけて減価償却費としてP/L(損益計算書)に計上していきます。たとえば30万円のPCを3年使うなら、1年あたり10万円。年に何本出演するかで割れば、一晩あたりに乗せるべき機材費の目安が見えてきます。

ソフトのサブスクリプションも同じように考えられます。こちらは毎月決まって出ていく固定費なので、たとえば月1万円のサブスクを払っているなら、月に1万円以上のインカムがなければ、その月は赤字です。月1本しか出演しないなら、その1本で1万円をまかなう必要がありますし、月2本なら1本あたり5,000円で済みます。

図の例では、機材・サブスク・交通費などを合わせた費用が年24万円。年24本出演するなら、一晩あたり1万円を下回ると赤字になります。これが、この例で受けられる金額の最低ラインです。

市場が決めると言いながら、自分のコストで金額を出すのは矛盾しているようにも見えますが、自分の中では、こう整理しています。

  • 活動を維持するためのコストは、自分が受けられる金額の下限
  • 発注者から見た市場評価は、相手が払える金額の上限

この間で協議をして、お互いに合意して、初めて契約が成立します。

もし下限であるコストが、上限である市場評価を上回ってしまっているなら、打てる手は、コストを下げるか、市場評価を上げるかのどちらかです。そして、そのどちらも、VJ自身の手の中にあります。

VJの価値はフロアにある

では、その市場評価のもとになる「VJの価値」とは何なのか。

まず前提として、フロアの主役はDJとオーディエンスです。DJが音を投げかけ、オーディエンスが反応し、その反応を受けてDJが次の一手を選ぶ。この即興の応答こそが、クラブという場の核心です。

VJはその主役ではありません。PAや照明と共に、その応答が生まれる空間全体の体験を底上げする役割を担っています。映像が音楽と噛み合ったとき、フロアの熱量は確実に一段上がります。その「一段」を生み出せることが、VJの価値です。

一方で、集客の面ではどうでしょうか。VJはフライヤーに名前が載ることが多いですが、自分自身クラバーとして足繁くクラブに通っていて、正直に言うと「このVJがいるから行こう」と思ったことはありません。名前でお客さんを呼べるVJや、映像込みで一つの作品になっているライブもありますが、多くの場合、お客さんがチケットを買う一番の理由はDJやアーティストです。つまり、VJがチケットの売上に寄与する部分は、DJに比べると小さいということです。

そして、クラブイベントには大きなお金が動いています。日本で活動しているオーガナイザーのCoopさんが、250人規模のイベントを開催するのに3,000〜5,000ドル(日本円で数十万円規模)かかる、という動画をXに上げていました。

この金額は海外アーティストを招聘した場合のもので、イベントによって規模はさまざまです。ここで言いたいのは金額の高い・安いではなく、一晩のパーティーにはそれだけのお金が動いている、ということです。いずれにせよ予算には限りがあり、VJのギャラはそれをDJ、音響、照明、箱代と分け合って出ています。限られた予算の中で、集客では評価されにくい。そのためVJのギャラは、フロアの体験を底上げするという価値を、そのVJがどれだけ認めてもらえているかで決まるのです。

安いのは、言い方は難しいけれど自己責任

ここまで読んで「結局、安いのはVJ側の責任ということか」と思った方もいるかもしれません。言い方は難しいですが、自分はその通りだと思っています。

ただ、これは突き放すために言っているのではありません。裏を返せば、自分の価格を上げる手段は、自分で選べるということです。

「趣味で安く引き受ける人がいるから相場が下がる」という声もあるでしょう。でも、そういう人がいることも含めて市場です。「VJの顔ぶれが固定化していて、新しく始めてもやる場所がない」という言説も同じで、実績のあるVJに頼むのは、オーガナイザーにとって合理的な判断です。その中で「この人に頼みたい」と思ってもらえる価値を示すしかありません。

イベントの規模によっても変わる

イベントの規模によっても、動くお金の大きさは変わります。

たとえば数十人規模のイベントでは、箱と主催者の間の条件にもよりますが、そもそもチケット代の総額が小さくなります。主催者としては、VJにギャラを多く出したくても、ペイできないので出すことができません。

大きなイベントもあれば小さなイベントもあり、予算はピンキリです。だからこそ、何でもかんでも一律の料金で受ける必要はありません。

予算が少ないときも、ただ断るか値下げするかの二択ではありません。「こういう演出を削れば、この予算に収まると思いますよ」と提案できるといいですね。たとえば、生カメラの取り込みを省く、新規素材は作らず手持ちの素材で組む、といった形です。内容と金額の釣り合いを保ったまま予算に合わせられれば、主催者の力にもなれます。

場数を大事にするなら、規模に応じてギャラを抑えて受ける選択もありますし、ブランディングを重視して小規模なイベントは受けないという考え方もあります。ただ、後者は実績を積み、市場評価が固まってきてから取れる選択です。いずれにしても、受け方は自分で選べばいいのです。

目の前の現場を丁寧にこなす

自分も、最初から大きな現場に呼ばれていたわけではありません。もともとはDJから始めていて、VJとしてのキャリアは、早稲田の茶箱という30〜40人も入ればいっぱいの小箱で開催されている「高専DJ部」で映像を出したことから始まりました。

VJをやっていると、どうしても大きなシーンに目が行きがちです。でも、実績は目の前の案件の積み重ねでしかありません。小さなパーティーでも、身内のイベントでも、一つひとつの現場を丁寧にこなす。それを見ている人が必ずいて、次の依頼につながっていきます。

結局、クラブに通うのが一番

では、自分の価値をどうやって発注者に伝えていくのか。

ポートフォリオサイトやXへの映像の投稿は、目に留まるのを待つ「受け身の訴求」です。無駄ではありませんが、そもそも「フロアの体験を底上げする」というVJの価値は、画面越しでは伝わりません。

VJが価値を訴求すべき相手は、クラブにいます。とにもかくにも現場に足を運び、店長やブッキングマネージャー、イベントのオーガナイザーと会話をすること。これが「能動的な訴求」です。

自分自身、キャリアの幅が広がったきっかけはまさにこれでした。DJとして出演した「Beginning」というイベントで、主催のSAKOさんに「自分、VJもできるんですよ」と伝えたことで、VJとしての仕事が広がっていきました。その後も、ageHaに遊びに行ってはREZのカゾエさんにageHaの方を紹介してもらい、Visionに遊びに行ってはH2KGraphicsのナリさんにVisionの方を紹介してもらう。そうやって、クラブで出会った人から人へと縁がつながってきました。

人となりも分からない人に、大事なイベントの演出を任せようとは思わないですよね。それに、クラブに行けば他のVJの映像を見て、自分の表現の参考にすることもできます。お酒も飲めて、いい音楽も聴ける。良いことしかありません。

最初はコストをかけすぎない

もう一つ、これからVJを始める方、始めたばかりの方に伝えたいのが「最初からコストをかけすぎない」ということです。

大規模なステージの煌びやかな演出には、生カメラの取り込み、リアルタイムレンダリング、LEDへのマッピングなど広範な技術が求められ、相応のコストがかかります。それに憧れてあれもこれもと手を出すと、受けられる金額の下限がどんどん上がっていきます。会計の言葉で言えば、大きな投資をするとB/S上の資産が膨らみ、その分の償却費がP/Lにのしかかって、一晩あたりの下限を押し上げるということです。ところが、実績がないうちは、その投資を市場に評価してもらうのは難しい。前半の図で言えば、コストの下限だけが右に動いて、市場評価を追い越してしまう状態です。

ビジネスは何でもスモールスタートが鉄則です。まずは手持ちの機材でできる範囲から始めて、実績を積み、市場評価が上がってきたところで投資の幅を広げていく。その順番を間違えないことが、VJを長く続けるうえで大切だと思います。

同じテーマについては、VJのScreenSaverさんの記事もとても参考になります。初期費用を一度で回収しようとせず時間をかけて回収する考え方や、中古の機材や無料のソフトを使った具体的な始め方まで書かれているので、これから始める方はぜひ読んでみてください。

https://note.com/s_c_s_v/n/n30450ccc3846

もちろん、最初からガッツリ投資して、採算度外視で仕事を請けるという、リスクを取った戦略もそれはそれでありです。それを否定するつもりはありません。今のP/Lの赤字を、将来の市場評価への投資と割り切る考え方です。ただ、それはリスクを承知のうえで選ぶ道であって、誰にでも勧められるやり方ではないと思います。

おわりに

VJの価値は市場が決める。とはいえ、ギャラはVJ一人ひとりで違います。もし自分のギャラが安いと感じているなら、まずはそれが今の自分の市場評価なのだと受け入れること。そこがスタート地点だと思います。

嘆く必要はありません。市場が決めるからこそ、その価値を上げる手段もVJ自身の手の中にあります。具体的には、

  • 自分の活動に必要なコストを把握し、根拠を持って金額を提示すること
  • 大きなシーンに憧れる前に、目の前の現場を丁寧にこなすこと
  • SNSで見つけてもらうのを待つのではなく、クラブに足を運び、人と話すこと
  • 機材や技術への投資は、実績と市場評価に合わせて少しずつ広げていくこと

以前「VJである前に、クラバーでありたい」という記事を書きましたが、結局のところ、この話もそこに尽きるのだと思います。まずは今夜、クラブに遊びに行きましょう。

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